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福島地方裁判所会津若松支部 昭和41年(む)73号 決定

申立人 米山高道

決  定 〈申立人氏名略〉

被疑者平野道雄にかかる窃盗被疑事件につき、会津若松簡易裁判所裁判官二瓶兼義が昭和四一年七月二一日付でなした捜索差押許可の裁判に対し、申立人から準抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

会津若松簡易裁判所裁判官二瓶兼義が被疑者平野道雄にかかる窃盗被疑事件につき、昭和四一年七月二一日付でなした捜索場所を会津若松市東栄町六番七号米山高道方居宅並びに附属建物差押物件を会津若松市東栄町八番四三号鈴木富昌振出しにかかる額面一五万一、〇〇〇円也の小切手一枚とする捜索差押許可の裁判は、これを取り消す。

右捜索差押許可状の請求は、これを却下する。

理由

本件申立の趣旨及び理由は、申立人代理人弁護士富岡秀夫作成名義の準抗告申立書のとおりであるから、これを引用する。

よつて審案するに、取寄にかかる資料によれば、会津若松簡易裁判所裁判官二瓶兼義は、昭和四一年七月二一日福島県猪苗代警察署司法警察員警部吉田亘の請求により被疑者平野道雄にかかる窃盗被疑事件につき、捜索すべき場所を会津若松市東栄町六番七号米山高道方居宅並びに附属建物、差し押えるべき物を会津若松市東栄町八番四三号鈴木富昌振出にかかる額面一五万一、〇〇〇円也の小切手一枚とする捜索差押許可状を発し、同日右令状にもとづき同警察署司法警察員警部補服部芳雄により差押が執行されたこと、並びに右平野道雄にかかる窃盗の被疑事実は、同人が高柴隆夫らと共謀の上、昭和四一年七月一二日福島県耶麻郡猪苗代町字士町一番地所在の士津神社宝物庫において同神社所有の刀剣二振を窃取したというにあることが明らかである。そして右資料によればその後鈴木富昌が茂木明を介して右刀剣を買い受けた事実が判明したので、右鈴木がその買受資金調達のため申立人に対して振り出し申立人において現に所持している小切手につき、右窃盗の日時特定のためこれを押収する必要があるとして、右捜索差押許可状の請求がなされたところ、前記裁判官においてこれを容れ、前記許可の裁判をなしたものであることが認められる。

ところで、捜索又は差押は、証拠物又は没収すべき物に限りこれをなすことが許されるものであるところ、右の事実によれば、本件被疑事実は刀剣二振の窃盗の事実であるから、右盗品の買受人がその買受資金調達のため振り出した本件小切手のごときは、右窃盗被疑事実を証明すべき証拠とはなり得ないことが明らかで右の証拠物又は没収すべき物に該当しないものといわなければならない。しかも資料によれば、申立人は相当の社会的地位を有する医師であつて、本件捜査についても任意に協力し、既に昭和四一年七月一五日前記警察署司法警察員の取調に対して右小切手の内容及びその授受に関する前後の状況について供述しているのみならず、右窃盗の犯人は既に全員逮捕され、その供述その他の資料により右窃盗の日時が昭和四一年七月一二日午後であることが証拠上確認できることが認められ、更に小切手は法定の支払呈示期間内に支払呈示をしなかつた場合にはその理由のいかんを問わず、所持人は遡求権を喪失し損害を蒙るものであることなど諸般の事情を考慮するならば、本件小切手について捜索差押の必要性もないものと認められる。結局前記窃盗の被疑事実にもとづき申立人に対しその所持にかかる小切手につき捜索差押を許可した前記裁判は違法であるといわなければならない。

よつて、本件準抗告の申立はその理由があるから、前記裁判を取り消し右捜索差押許可状の請求を却下することとし、刑事訴訟法第四三二条、第四二六条第二項により、主文のとおり決定する。

(裁判官 山田瑞夫 松岡登 渡辺剛男)

準抗告申立書〈省略〉

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